広瀬健一さんの謝罪文

悔悟 オウム真理教元信徒 広瀬健一の手記 朝日新聞出版編 より

被害者への謝罪文   平成十六年三月

地下鉄サリン事件から九年の歳月が過ぎました。
しかし 時折ながされる報道によって事件がもたらした
問題の多くが今も未解決であることを知り
私が犯した罪の重大さを感じざるを得ません
十二人もの尊い生命を奪い 遺族や被害を
受けられた方を癒やされようようもないほど
苦しめている残酷な行為を致しましたことに
後悔の念ばかりが起こります
私が発散させたサリンで被害にあわれた方の
ご遺族も苦しみ続けておられます 
また重篤な後遺症がある方の闘病生活の
苦しみ そして介護のためのご家族の苦しみも
続いています
このように多くの方々の人生を狂わせてしまったのに
対し、私が五体満足で生活し生き続けていることが
たいへん申し訳なく思われます
被害関係者の方々にあらためて心より
謝罪致します
私はかつて無常観を抱き その解決を解脱に求め
ました そして 私は修行経験によって教義の
真偽が検証できるものと思い オウム真理教に
関心を持ちました
しかし これは誤った考えでした 解脱、輪廻転生
という類の観念は そもそもその真偽を
決定できないものでした
また修行経験のような主観に頼る方法に
よっては教義の 正確な検証ができるはずが
ありませんでした
このことに早く気づいていれば 私はオウム真理教に
関心を持つことはなかったと思います
神秘体験にとらわれて オウム真理教に
深入りすることもなかった思います
これに気づかずに 非人間的な罪を犯す
までに至った おろそかに恥じるばかりです
修行経験によっては 教義の検証ができるはずが
ないことを 二度と私と同じ誤ちが起きないように
アーレフの信徒やこれに類似した修行によって
人生の問題の解決を試みようとする人に
伝えたいと思います
それでも修行する場合は得られた経験は
主観の範囲にとどまるもので 決して客観的な
世界の経験ではないことを常に念頭に
置くべきだと思います
私の犯した罪はいかなる刑に服そうと
いかなることをしようと償いきれないものと思いますが
償いを模索し続けるべきだと思っております

              平成十六年三月
                    広瀬健一