12名の死刑判決確定に際する声明

2011年11月21日

オウム真理教家族の会

会長 永岡弘行

本日、最高裁判所は、遠藤誠一被告の上告を棄却しました。これにより、オウム真理教事件の実行犯12名について、死刑が確定することになります。

オウム真理教は、教祖麻原の指示のもと多くの方々を殺し、数千名の方々に傷害を負わせました。未だ後遺障害に苦しむ方々もいます。私どもが顧問弁護士としてお願いした坂本堤弁護士と奥様の都子さん、一粒種の龍彦君も殺されてしまいました。すべて取り返しがつきません。私たちオウム真理教家族の会(旧「オウム真理教被害者の会」)は、亡くなられた多くの方々、ご遺族、数千名にのぼる被害者の方々に対し、ここに深くお詫び申し上げます。

私どもは、1989年の結成当初から、子供たちの入信・出家の際にこれをとめるためにあたう限りの説得活動をし、また東京、静岡、山梨、熊本での出家信徒たちに対する毎月の呼びかけ行動、拡声器で日々のラジオニュースを流す行動、望遠鏡を設置するなどの監視活動、教祖と幹部らの調査活動など、できる限りの努力をしてきました。今、改めてその無力さに呆然とするばかりです。

ただ、ただ申したいことは、私どもは会の結成当初から麻原彰晃(こと松本智津夫)の犯罪性を見抜き、被害対策弁護団と協力しつつ、警察や行政機関に対して、何度もなんども強く、オウム真理教へのまともな対応をお願いしてきたことです。宗教法人として認証しないように、認証後にはそれを取り消すよう東京都に求め、出家信徒の子弟にたいし義務教育さえ受けさせていないことが露見したときには、それに対応してほしいと要請し、未成年者が行方不明であることから対応を求め、盗聴器事件では徹底して捜査してほしいと求め、もとより坂本弁護士一家の失踪事件では徹底してオウム真理教を捜査し監視してほしい、と要請してきました。

今、率直に思います。警察や行政機関がその1つでも、まともな対応があれば、教祖麻原とオウム真理教はここまで増長することはなかった、と。否、私どもの会長永岡弘行へのVX殺人未遂事件1つでもまともに対応して下されば、少なくとも假谷さん事件、地下鉄サリン事件、東京都庁爆破事件などはなかったと。

それが、ただただ悔しい、そして申し訳ない。そしてその結果、私どもが救おうとしてきた子どもらが12人も死刑判決確定となったことが、ただただ、悔しいのです。

 

そのうえで、私どもは強く望みます。12名の死刑は、どうか、どうか執行しないで下さい。

 

一連のオウム真理教事件は、グル麻原彰晃こと松本智津夫の存在なしにはありえませんでした。12名の死刑囚は、他の信者同様、もともとなんら違法行為をするものではない実に真面目な青年たちでした。このことは、この16年間の刑事裁判を見てきた方々にはよく分かっていただけると思います。

 

その死刑囚12名を初め、なぜ信者らが罪を重ねるに至ったか。それこそが、オウム真理教事件の恐ろしさであると確信します。

教祖松本死刑囚は、自らを最終解脱者としすべての人の輪廻転生を支配すると信じ込ませました。教祖松本は、「人のためになりたい」「真理を知りたい」「生きがいを得たい」という純粋な希望を持つ若者に、「死」とその後について徹底した現実的恐怖感を与え、現実社会にあって人を殺しても変革することこそが「救済」になると信じ込ませました。呼吸を管理した修行方法による神秘体験、時には褒め殺し、時にはリンチ、時には数か月にのぼる暗黒の独房、独房内の延々とした説法ビデオ、などなどの心理操作の手法により、もともとの善良なごく普通の若者の意識が解凍し、変革し、さらに「修行」を重ねる中、再凍結していきました。まして、1994年5月頃からは、「イニシエーション」名目でLSDや覚醒剤など薬物を使用し、睡眠不足、栄養不足、オーバーワークの中、現実感覚を徹底して失わせました。これらのことは、刑事裁判にて相当程度明らかになったと思います。

一言で「マインド・コントロール」と言えましょうが、その実質は空恐ろしいまでの人格破壊、人間破壊であり、これを作り上げたのは松本死刑囚と彼が作り上げたオウム真理教というシステムです。実際、オウム真理教の中では教祖の指示に逆らった者は、数か月ないし何年も独房に入れられ、リンチされ、温熱刑などにより殺され、あるいは1994年以降は百名以上が記憶を失わされたのです。そんな異様至極な環境でのマインド・コントロール、極限の心理操作の下で、絶対者である松本死刑囚の指示により、多くの事件を起こさせられたのです。

12名は、松本死刑囚により魂を虜にされた「ロボット」であったという外はないものです。多くの非道な事件は、文字通り、松本死刑囚という「頭」によって、まともな心と意識を停止させられた12名がした事件と言う外ないものでした。こんな心理操作があれば、12名でなく私どもの他の子どもの誰が死刑囚となってもおかくないものでした。否、どんな若者でもたまたまオウム真理教に出あえば、死刑囚になっていってもおかしくないものでした。

そんな12名の死刑を執行することが、本当に正しいのでしょうか。

 

また、オウム真理教事件は実は「内乱罪」に当たるものと思います。国家の転覆を狙った教祖松本を首謀者とする「内乱」とその前提としての様々な事件であったことは、麻原判決を初め多くの判決文自体からも分かることだと思います。今、「内乱罪」の場合は、首謀者のみを死刑とする刑法の規定を、忘れてはならないと思います。

12名には、まだ生きてなすべきことがあります。オウム真理教は未だ「アレフ」や「ひかりの輪」やいくつかの分派として残存しています。社会の安全のために、オウム真理教事件を真実終結させるためにも、完全に崩壊させなければなりません。今後、これらやその他の分派で絶対的な「グル」が出てくるならば、内部のリンチから始まり、外部への加害行為をくり返す恐れもあります。12名のうち少なくない者はそんな現役信者に対して脱会への働きかけを続けてきました。12名それぞれが、改めて事件について語り、その心理経過と、後の心理状態を明らかにさせていくことこそ、オウム真理教を完全に崩壊させる原動力になります。

12名は、その他の破壊的カルト、これからも発生する可能性のある強烈な破壊的カルトについても、貴重な研究対象です。特に、宗教的なものにあっては、彼らの行動の背景にあった「神秘体験」や薬物による精神への影響、死の恐怖の捉え方、そのうえでこのような事件まで起こした心理経過を研究し対策を建てることが大切です。彼らはその、生きた証人です。

12名の死刑は、決して執行してはならないと考えます。

 

12名を、麻原とともに、あるいは続いて死刑にすれば、現役信者からは「尊師とともに転生していった」と思われるだけです。

12名は、獄中にあって相応の償いをさせ続けなければなりません。現実感覚を取り戻させ、維持し、自らがしたことが決して「救済」としての殺人でないことを永遠に実感させ続け、世に破壊的カルトの恐ろしさ、その実態を伝える存在とさせなければなりません。

どうぞ、12名について、死刑だけは執行しないでください。

社会にあっては、どうぞ死刑の執行を回避させるべくどうか理解を賜り、お力をお貸しください。

家族の会として、以上のとおりお願い申し上げます。

以 上